漫画■ヒカルの碁・現代少年漫画の王道(4/9-23:41:39)

Date: 2000-04-09 (Sun) ごたく雑記より転載


でました。第六巻。
この巻は結構これまでの人物関係の整理や状況確認に費やされていて、目覚ましい展開はなかった感じがするのだけれど、あいかわらず丁寧なストーリーテリングと現代的な「少年漫画の王道」をひたむきに歩む姿勢には絶賛するしかありませんな。

「碁」漫画である。(少年ジャンプ/連載中)
普通の少年が碁にめざめ、碁の天才少年をライバルとして、一歩一歩強くなっていく・・・・少年漫画の典型的パターン(スポコン変形ともいえよう)を踏襲した作品であり、しかもその典型のどまんなかをまっすぐ、いささかのからめ手もなく進んでいく物語である。平安時代の天才棋士の幽霊が彼にとりついて・・・という、いかにも現代漫画的な設定もあるのだが、それとてあざとさとは感じさせないほど、重厚にして繊細。リアルで万人が共感できる世界の創造とキャラクター造形。
主人公と「最強の敵」しか描かれないうすっぺらな世界の中で、「根性」だけで敵をやっつけつづけ、「最強」のインフレで自家中毒をおこすような荒っぽいストーリー(いまではそれが少年漫画の王道らしいが)とは無縁である。
ほんのちょいとしか顔を出さない端役さえ感情や背景があることを感じさせる作者の愛情の深さ。しかも彼らを、主人公や作劇に『都合がいいか悪いか』という視点だけで描かないのが、希有にして感動的だ。物語のステップにしかならない場所にさえ歴史を匂わせるほど細やかな世界の作り込み。
極端な悪や裏切りで物語を盛り上げるのではない。あくまで普通人としての常識やマナー、モラルのなかで誠実に自分の目標や自分の限界を見つめ、悩み、成長していく登場人物たち。エキセントリックさでキャラを立てるのではない。ここに出てくる連中は誰も、人を蔑むことで自分を浮き立たせようとは絶対にしない。社会と他人への反発はあっても、常に相応の敬意をもって接している。
それでいて、いかにも優等生的でお説教臭い雰囲気や地味な印象はなく、あくまで現代的にポップに話は進行し、ひとつの勝負の息詰まる感覚は、奇声や筋肉や必殺技を誇示して「命がけの戦い」を繰り広げているアクション漫画などおよびもつかない緊張感と興奮を呼び起こす。

漫画というジャンルははあまりに深く広くなりすぎて、老若男女、誰にでも薦められる作品など滅多にない。僕自身の好みも偏っている。
だが、この漫画は違う。「碁」に興味などあろうがなかろうが関係がない。とにかく、誰にでも「面白いよ!すごいよ!」と自信をもって薦められる、信じられないほどすべてが揃った奇跡的な作品だ。その手柄は、絵コンテまで手がけている原作者ほったゆみに帰するところが大きいだろう。碁に対する知識と愛情という、もともと持っていた武器以外の才能も、恐るべきものがあるといえるだろう。高レベルの作画(小畑健)も素晴らしい。
欠点がなさすぎて、困ってしまうぐらいだ!

もう少年ジャンプの漫画など一生読むことがないだろうと思っていた僕だったが、この漫画を産み出したことだけで、この雑誌があってよかったと今思っている。