推理■美味しい短編集『メインディッシュ』(4/9-23:39:21)

2000-04-09 (Sun) 「ごたく雑記」より転載


1999年の本格ミステリは、短編集が美味しい年だったらしい。
創元社の「2000年本格推理ベスト10」がでて(ちゃんと1999年最後にでたものまで範囲に含めるので、他のベスト10と違って数ヶ月遅れてでるのだ)、昨年の作品をチェック。1位が「法水倫太郎の新冒険」なのがその象徴か。
「このミス」ほどじゃないにしろ、僕の知らない傑作がいろいろと出ているようで、不明を恥じつつ、興味のわいた短編集を購入。

恩田陸『象と耳鳴り』(祥伝社/ハードカヴァ−)。ミステリとは思えぬ奇妙な題名。12編の短い作品が詰まった短編集。語り口が異なるが作風と主人公は芯を貫いている。上品でひねりがあり、少し枯れた大人の味わい。ただ洗練されすぎてて、こくが欲しくなるのは贅沢?

で、今日読了したのは北森鴻『メインディッシュ』(集英社/ハードカヴァー)。こちらは題名がストレートに内容を表している、各作品に「料理」をあしらった短編集。短編が続いてひとつの長編になっているタイプ。それも順番に読まねば、全体に仕掛けられた趣向が味わえないから、連作長編というのがふさわしいのかな。この手の趣向やサプライズが前面に出過ぎている本格ミステリの傾向になんとなく不安を覚えている僕だけれども、この本のそれは、「隠し味」である。いや、隠し味というにはかなり重要な要素なのだけれども、そのことで支えられている作品ではない。短編ひとつひとつが、さながら「みけ」さん(この作品の探偵役にして一番謎の多い人物)が作中で作る料理のように、美味しそうな湯気をたてていて、それぞれ独自の味わいを主張しているのだ。
しゃれているけど、スカしてるわけじゃなく、せつなさもあるけど、それに溺れすぎてもいない。大きな事件がおきるわけじゃないけど、推理の過程は起伏に満ちている。
高級レストランの味というより、料理自慢が丹誠込めて作った夕食の味わい。
堪能しました。お薦めです。