映画■ケイゾク(4/9-23:34:40)

2000.03.20 の「ごたく雑記」より転載

テレビドラマは観ないのだが、ケイゾクは、新聞かなにかの紹介を見てから気になってずっと観ていた。本来映像には向いてないといわれる本格推理風の設定を、現代的な映像感覚でうまく処理しており、特に探偵役のキャラ造形が本格ファン納得の出来栄え。ただ、本格推理オタクの作品というよりも、『本格のスタイルをちょいとぱくってみました〜トリックも有名作品からじゃんじゃんぱくっちゃうもんね〜それの何が悪いの〜』というノリで作られていることも感じ、エヴァンゲリオンなどからの影響も同様のノリで取り入れていて、なるほどねぇと感心はするが、感動はなかった。
僕はパクリは悪いと思ってないが、パクるのなら、もとネタを越える何かを創造し付加しなければ・・・と考える。それがパクる相手への敬意だろうと思う。
ケイゾクは、そのへんのこだわりをするりと無視して、無自覚に(あるいはそう見せかけて)、気軽に寄せ集めて、客にそのまま提示してみせる。
まあ、そういうやり方が失敗して失笑を買う例がこれまで多かったわけだが、オタク世代であろうスタッフたちは、そこらのパクリのセンスも絶妙だから、それなりに美味しく作っちゃうんですね。
料理にたとえれば、冷凍食品や偽素材をたっぷり使い、『あざとさ』調味料をごちゃまんとかけたファーストフード。
でも、シェフは、「ま、それなりの美味しさに仕上げたし、文句ないでしょ」とにやりと笑うしたたかさを持っているのだ。

そんな訳で、ケイゾクは、それなりに面白くは観ていたし、マイナーな間は「本格ミステリ風味を、現代的映像で成立させた」という点で応援していたのだけれど、いつの間にかメディアミックスで変に盛り上がり、続々と関連書籍やらなんやらが出て『ケイゾク最高』という風潮になると、「おいおい。そこまで手放しで誉めあげるほど、立派なドラマじゃないだろうに。」と思わざるを得なかった。
映画化されても観に行く気はかなり失せたのではあるが、他の映画が立ち見だったので、ちょうど始まろうとしていたこの映画にとびこむことになる。
キャラの立て方はあいかわらずうまい。
前半の孤島に集まった人々がひとりひとり死ぬ・・・というお約束のパターンもいかにも現代的なキャラに演じられて面白い。ひとつひとつなにかが消えるという趣向の後に、窓から見えていた島が消えてしまったときには「おお!?エラリイクイーンの家屋消失ネタに挑戦するのか!?」とワクワクしてしまった。
うかつだった。トリックをまるまるパクっていたのだ。
ミステリのトリックをパクるのは罪ではない。だが、パクリ方にはルール・・・いやマナーはあると思う。金田一少年といい、ケイゾクといい、そういうものをテンから無視していて、これはあんまりひどすぎるんじゃないだろうか。
ミステリへの敬意のなさは、犯人が何故こんなトリックを使い、なんのために連続殺人を行ったのか、結局全然説明しようとしないということでも証明されている。
制作者たちはそんなもんには興味はないのである。とにかく、キャラたちは、トリックを使って連続殺人を犯せばよいのだし、それに理由をつけんのは、面倒だからいやだ・・・・それですんでしまうのだ。
後半、これまでの話とまったくつながってない、妙な幻想世界へ、主人公たちは迷いこむ。そこで、なんだかよく判らない会話をしては、相手を拳銃でばんばん撃ちあう。なにか意味ありげに見えるが、たぶんこれってエヴァンゲリオンのラストや「ビューティフルドリーマー」や「コンタクト」や「2001年宇宙の旅」みたいなことをなんとなく「やってみたかったからやった」だけのものだと思われる。
あれに意味を見つけようとする観客に「ばーか」と舌を出してるのではないかな。

・・・とかなりぼろくそに言ってるみたいに見えるけれど、実は結構楽しめたのも事実である。気持ちよくはないが、化学調味料たっぷりの料理は、ジャンクフードに慣れた僕の舌にはあっているのかもしれない。
このシェフは、化学調味料をつかわせたら右に出るものがいないのだ。